マルーンの部屋

東海、関西地方の鉄道とバスのブログ

東海道を駆け抜けるバスの王者、エアロキング ~超得得ドリーム419号~

 

なぜ、あの時乗らなかったんだろう・・・

鉄道が、バスが、路線が、車両がなくなってから

解決しようのない後悔、そんな思いを延々と抱き続ける

 

今でも例をあげようとすれば枚挙に暇がない

そして、これからも増えていくのだろう

現実的に全部に乗っていくというのは不可能であるし

もしそれを乗り終えたとしても、

別のことを思い始めるのが目に見えている

 

でも、近い未来にその一員になるであろうことを

できるだけ減らしておきたいものである

そんなことを考えていると、ふと一つ思い当たった

 

 

記憶に残っている限り、自分はエアロキングに乗ったことがない

 

 

もちろん、写真に収めたことは何度も

・・・というか数えきれないほどあるのだが

乗ったことがない

 

バスを気にするようになったのがここ数年で

それ以前に乗ったことがあるのかもしれないが

さすがに二階建てバスだったら記憶に残るだろうと思うから

たぶん乗ったことはないのだろう

 

バスに興味を持つようになって、高速バスに乗ることは増えたが

名古屋からでは、東京行きでしか走っていないことや

ちょうどコロナ渦で遠出を自粛していた面もある

 

どちらにしろエアロキングには乗っていない

 

国産の二階建てバスとしては日野、日産、三菱が作っていたのだが

日野と日産は21世紀を迎える前に撤退、

三菱ふそうの「エアロキング」だけが孤高を守っていた

 

しかし、エアロキングも2010年を最後に製造を終了

日本製の二階建てバスは現状、途絶えたと言える

それに伴って、二階建てバスを用いた高速バスは漸減

 

さらに、エアロキングで残った路線も

外国製の二階建てバスによって置き換えられることが多くなり

”国産の”二階建てバスに乗れる路線は数少なくなった

このまま行くと、確実にあと数年内で国産の二階建てバスは消える

 

今のところバス趣味をやめるつもりはないので

自分がバス趣味を続けている限り、

エアロキングに乗ったことがないという後悔は必ず付きまとう

そんな確信を少し前から持っていた

 

私が住んでいる名古屋から

エアロキングに乗ろうとすれば東京行きJRバス一択

昼行なら10時発か11時発、夜行なら22時台に2本ある

 

それに乗ればよかったわけだが、なぜか乗らなかった

 

いつでも乗れるから、今日じゃなくてもいつか乗ろう

そんなロジックが働いていたのだろうと自分で思う

 

それで伸ばし伸ばしになっている間に

いつの間にか無くなって後悔するのがいつものオチであるが

 

そんな時にJRバスのキャンペーンで

期間限定で東京~大阪間の夜行バスを2500円という

破格値で運行するというニュースが出た

 

もちろん、JRバスが東京大阪間を2500円で

運行するというのも驚きであったが、

私にはそれがエアロキングで運行されることに気が行った

 

東京と名古屋の間を毎日4往復しているエアロキング

車種自体に変わりはないし、

そのうちの1往復と同じ仕様の車両で運行されるのだから

特に何かあるわけではない

 

しかし「期間限定」というところに惹かれてしまった

明示されている期間が終わってしまえば乗ることはできない

 

さらに、東京~神戸の便はエアロキング充当便が残っていたものの

東京~大阪という日本一の区間を走るエアロキング

JRバスの定期運用ではすでになくなっていた

 

これを逃せば、東京と大阪の間をエアロキングで移動することは

不可能になるかもしれない、いやたぶんそうだろう

 

これに尻を叩かれて、ようやく腰が動いた

 

正確にはパソコンを打つ手が動いたわけだが、予約サイトで予約

 

4列詰め込み仕様の車両、かつ満席になることが予想されたので、

1階席の一人掛け席が選ぶべき席であることは容易に想像がついた

 

しかし、今回の目的はリラックスして目的地へ向かうことではない

二階建てバス、エアロキングに初めて乗ることなのだ

 

やはり、二階建てバスに乗るならば2階最前列であるべきだと

 

バスに詳しい、というか夜行バスに乗ったことがある人ならば

この行為が無意味であることは容易に想像がつくだろう

そう、夜行便ならばカーテンで閉ざされているから

最前列のメリットである車窓は全く楽しめないことに

 

しかし、私はそれを承知のうえで選択した

最初で最後になるかもしれないエアロキング

実際見えなくても、心の中で最前列の景色を見ようじゃないかと

 

幸い、最前列は全て空いており1B席をチョイスした

どうせ窓の外が見えないなら、通路側の方が自由が利く

 

これで予約を確定、後は当日に乗り場に向かうだけである

 

ここまで、のらりくらりとエアロキングに乗ることがなかったので

拠り所のない高い敷居を感じてしまっていたが

なんてことはない、普通の夜行バスである

在来線で博多まで行く方がよっぽどおかしな話である

 

乗ろうとするまでは長かったが、いざ乗るとなれば早いものである

 

 

乗り場の東京駅八重洲口に着いたのが21時40分

出発は23時ちょうどであるから、かなり早く着いてしまった

気持ちが高ぶったからだろうか、いつにも増してせっかちである

 

JRバスから格安バスまで一手に集めたバスタ新宿には敵わないが

東京駅の改札からすぐで、JRバスだけのコンパクトにまとめられた

ターミナルも悪くないと思った

乗り場がきれいに一列に並んでおり、整然としている様子

 

日本一の大動脈である東京~大阪間は

JRバスだけでも多くの夜行便が出発する

 

 

待っている間にも、JRバスの上位ブランド「GranDream」や

最上級ブランド「Dream Rulie」など高級バスが発着

 

3列独立シート、もしくは半個室シートを備えており

リラックスして移動できることができる、イマドキの夜行バスである

 

かつては新幹線や特急より安く移動できることを

アピールポイントとして好評を博したJRバスも

時は流れ、新興勢力であるツアーバス(格安高速バス)に

逆に安さという武器を突きつけられるようになり

「ゆったり」「便利」といった

付加価値をつけていく方向性にシフトしているのは

時代の流れとは言え、皮肉を感じる

 

しかし、今日私が乗るバスは「安さ」を武器にしてきたJRバスを

思い出させるようなバスである。その名も「超得得ドリーム号」

 

JRバスの廉価版ブランド「青春エコドリーム号」を”超”える

期間限定の破格値便である

 

JRバスとしては破格値であるが、平日で格安の高速バスならば

2500円は特にめずらしくもないと考えるのは無粋なことである

 

ここは一つ、「安さ」を売りにしたJRバスの一夜を楽しもうじゃないか

 

そう思っていると、ひっきりなしにやってくるバスの中から

ひときわ大きく、存在感のある車両が入ってきた

 

 

今晩の宿、超得得ドリーム419号がやってきた

 

前述の外国製二階建てバスは何台か来ていたが

やはりエアロキングの威容、存在感はひときわである

 

サイズは、日本の法律限界でほぼ変わらないはずなので

やはりエアロキングへの憧れが増幅させるのであろう

 

超得得ドリーム419号の始発は新木場駅

ちょっと早く東京駅に着いたらしく、

直接乗り場には来ず、横の待機バースに体を横たえた

 

これは撮影には好都合

乗り場は既に長い列になっていたが、列を抜けて撮影にいそしむ

 

 

同じ4列詰め込み仕様のエアロキングを使うものの、

東京側のJRバス関東と大阪側の西日本JRバスの車両が

交互に運用に就いており、この日は西日本JRバス便であった

 

というか、自ら予測して西日本の日を狙ったのであるが・・・

 

JRバス関東の車両ならば、

昼行の1日1往復で名古屋でも見ることができ

もし乗ろうと思い立ったとすれば、比較的乗るのは容易

 

一方、西日本の車両は名古屋行きどころか、

この時すでに定期運用を失っており

期間限定の臨時便である、超得得ドリームが

この車両に対する最後の花道に思えてしまったのである

 

そんな貴重なタイミングである上に、

待機バースの非常に写しやすいところに停まっているという

絶好のタイミングなれども、自分以外に撮影者はいなかった

 

振りかえると、この便に乗る客で長蛇の列ができており

予約サイト通りに満席になることが間違いないと確信した

 

しかし、誰もエアロキングには目を向けず

スマホに目を落としたり、連れとおしゃべりに興じている

やはり「安さ」が魅力でこの便を選んだのであろう

 

エアロキングの詰め込みに乗るために」この便に乗る奴は

私一人なんだろうなと思いつつ、

撮影を満足して列の最後尾に並びなおした

 

22時50分、発車の10分前になり

エアロキングは重い腰を上げて9番のりばに着停した

 

他のバス停と比べても、ひときわ長い乗客の列を

テンポよく改札していくのはやはりプロだと思う

そして乗客も乗り慣れている人が多いようで、思ったよりも早く進んでいく

 

やはり、このようなお得な便を探し出せるのは

夜行バスに乗り慣れた人種ということだろうかと思う

 

(降車直前に撮影)

予約した2階最前列の席へ向かう

 

車内は整然と、というか窮屈に座席が並べられていた

模範的な詰め込み仕様である

 

ただ、通常の高速バスの詰め込み仕様ならば

座席の間にひじ掛けがついておらず、隣席と体温を共有することになるが

補助席をつけることができない二階建てバスの副産物というべきか

立派な固定式のひじ掛けが鎮座していた

 

 

4列仕様の通常のJRバスでは存在しないカーテンも

通路のCD列側にあり、仕切ることができるようになっていた

 

B列に座ったいた私としては不公平感が無きにしも非ずだが

格安仕様でもカーテンを付けてくれた努力に敬意を表すべきであろう

 

 

最前列は足元が狭いことも多いが、エアロキングの場合

二階席にワイパーがある仕様とない仕様で大きな差があるらしく

この車はワイパーがなかったようで、かなり広々としていた

 

他の座席よりも足を伸ばせるくらい広々しており、

前が見えないことを差し置いても、当たり席の一つと言って問題ないと思う

 

写真の通り、最初は隣席がいなかったが

しばらくすると青年が乗ってきた

 

小さな声で「すみません」と言いつつ手刀を切る

その動作だけで、この青年が旅慣れた風であることが

はっきりとわかるほどの動作であった

 

詰め込みの夜行バスでは、

見ず知らずの人とは言え、一晩を隣で過ごす人が

その夜の快適さの大きなファクターとなる

 

隣人が夜行バスのマナーを知らない人であったり

大いびきをかき始めたりすると、

どれだけ運転士さんが丁寧な運転をしても

残念ながらその夜のクオリティーは低下してしまう

 

だが、今夜の心配は無用だな

そう思わせる青年の素振りには感服するばかりであった

 

そうこうしていると、ふわっと独特の揺れを伴って

エンジンの音が少し大きくなった

 

ああ、走り始めたのだなと思うと同時に

これが二階建てバスの独特な動きなのかと軽く感動を覚えた

これを知らずにバス好きを続けていたら

確実に後悔していただろう

 

無意味に東京まで出てくるなど、

御家存亡をかけて1年おきに江戸まで来ていた江戸時代の大名に

めった刺しにされそうな行動であるが、正解だった

発車してわずか数分でその思いに至った

 

東京の市街地を走っているんだろうなとわかる走りを

しばらく続けていると、停車して車内がざわめき始めた

 

最後の乗車地、バスタ新宿である

 

少し前までは東京からは東名高速、新宿からは中央道と分かれていたが

だんだんと東名、新東名にシフトする便が増えており

この便も例外ではなく、新宿から東名高速に入る

 

ちなみにJRバスの夜行便では、乗務員交代の関係で

新東名ではなく、東名高速を使っていたが

私がこの便に乗ったすぐ後に新東名にシフトすることとなる

 

図らずも、この夜行便が私にとって最後の

JR夜行バスで乗る最後の東名高速となった

 

新宿を出るとすぐに高速走行に移った感触があり

揺れが少なくなった

 

夜行バスの客層は、価格に比例するとよく言われ

格安の夜行バスだと周りのマナーが悪かったみたいな体験談が多くある

 

ブランドはJRバスなれども、格安という今回は

どんなものだろうと考えつつ乗ったが

全く気になることはなく、快適な車内環境

 

やはり先ほどの青年のように旅慣れた人が、

このような期間限定キャンペーンを見つけられるのだろうか

 

そんなことを考えてうとうとしていると、

途中休憩地、鮎沢PAに到着

鮎沢を出ると、すぐにおやすみ放送があり車内が消灯された

 

エアロキングのエンジン音をかすかに聞きながら

いつの間にか眠っており、起きたのは京都到着のアナウンス

晩の放送とは違う声で、途中で交代したのだなと気づく

 

この先、京都~大阪間で遅れが生じる可能性があり

大阪へ急ぐ場合は京都からJRを使うことを勧める旨も

付け足しで放送されると、多少車内がさざめき立ち

急いで降りる準備をする人も目に付く

 

満席だった車内は京都で7割ほどが降車

まさか正規で京都7割、大阪3割とは考えにくいので

先ほどの放送で考えを変えた人が少なからずいたのだろうと想像

 

隣の青年も京都で降りて行った

本当に隣に人がいることを感じさせない一晩を

私に与えてくれた彼には、ここで礼を述べたいと思うほどである

 

京都を出ると、かなり乗客は少なくなり

前から3列ほどは私しかいないような状況になった

 

京都発車後は完全消灯ではなく、減光状態で走行

周りに誰もいないこともあり、カーテンをちょっと失敬

 

 

京都から大阪までの短距離、カーテンを少し開けて見るという

こそこそとしたものであるが、エアロキング最前列の展望である

 

ほとんどの乗客が大阪まで行くと思っていたので

前面展望はあきらめていたが、見ることができた

 

京都での遅延アナウンスのおかげかもしれない

 

前面展望を楽しんでいるうちに、大阪駅に到着

もう少し前面展望を楽しんでいたかったが

大阪駅が終着なので後ろ髪を引かれながら下車

 

 

人生初めてのエアロキング

 

バス好きとしてまた一つ、

未来の後悔を減らすことができた満足感とともに

慣れた大阪の地に降り立った

 

とは言いつつも、またエアロキング

できれば外の見られる昼行便に乗りたいという

願望も出てきてしまったようだ

 

また、後悔を減らす旅に出ようか